自律神経失調症には鍼灸治療が有効です
自律神経失調症は、交感神経と副交感神経のバランスが崩れた時に生じる病気です。そして、鍼灸治療は、自律神経失調症に最も効果のある治療法の1つです。鍼灸治療は、薬のように副作用もなく、自分で自律神経をコントロールできるように促してあげる治療法でもあります。
鍼灸治療は、本来、自律神経の働きを意図的に整えることができる治療法です。
WHO(世界保健機関)の伝統医学部門、鍼灸に関する報告書の「臨床試験によって有効性が証明された」という疾患・症状では、うつ症状、頭痛、頚部痛(首の痛み)、腰痛、吐き気、低血圧、高血圧などが明記されています。また、頭痛に対しては、日本頭痛学会のガイドラインの中で最も効果のある治療法の一つとして鍼灸治療があげられています。
自律神経が乱れるって何?
自律神経
自律神経は、交感神経と副交感神経に分けることができます。
自律神経とは、心臓、肺、胃腸、汗など自分の意思とは関係なく24時間刺激や情報に反応して自動的に働き体の機能をコントロールしている神経です。
交感神経は「活動・ストレス」の神経
交感神経は、主に昼間、活動しているときに働く神経で、人前で話す時、仕事に追われている時など精神的に緊張している時、怒られてストレスがかかった時に興奮しています。また、通勤ラッシュや、不摂生、シャワーだけの生活、睡眠不足、テレビゲームやスマホ、パソコン業務なども交感神経を興奮させてしまいます。別な表現をすると、交感神経はエネルギーを消費し、からだを攻撃的な方向に向ける神経です。
交感神経の極度な興奮は、体中の筋肉の緊張につながり、様々な不調の原因となりますので、交感神経の興奮をいかにして和らげてあげるかが自律神経失調症を治すための重要な課題となります。
また、交感神経が興奮していることが全ての問題ではなく、こころとからだを修復してくれる副交感神経の働きが追いつかない、もしくは機能低下することが問題となります。
副交感神経は「リラックス」の神経
副交感神経は、休憩中、睡眠中などリラックスしている時に働く神経で、「からだの修復」をおこなってくれます。
昼間の仕事や勉強、運動によって疲れたからだを睡眠中など、副交感神経が交感神経よりも優位に働いた時に修復し、元気な状態に戻してくれます。
エネルギーを蓄積し、からだを防御的な方向に向ける神経です。また、副交感神経は、内臓に対して迷走神経という名前に変わって働いてくれます。
自律神経失調症 4つのタイプ
心身症型自律神経失調症
日常生活のストレスが原因です。心と体の両面に症状があらわれます。自律神経失調症の中で、もっとも多いタイプです。几帳面で責任感があり、努力家のまじめな性格の人がなりやすいです。
抑うつ型自律神経失調症
心身症型自律神経失調症がさらに進行した重度のタイプになります。
やる気が起きない、気分がどんより沈んでいる、といった「うつ症状」が見られます。
肉体的にも、頭痛、微熱、だるさ、食欲がない、不眠などの症状があらわれます。身体の症状の陰に精神的なうつも隠れていますが、病院では、身体症状を改善するための鎮痛剤、精神安定剤など対症療法しか受けられず、長い間、不快な症状に苦しむ人が多いようです。几帳面な性格や、完全主義のタイプが陥りやすいです。
本態性自律神経失調症
ストレスに弱い体質、生まれつき持っている体質に原因があります。自律神経の調節機能が乱れやすい体質のタイプです。
虚弱体質の人や、低血圧の人、発達障害に多く見られます。病院で検査をしても特に異常が見つかりません。日常生活のストレスもあまり関係しません。
本態性型は、体質そのものに原因があります。体質改善をするためは、鍼灸治療しながら、食事、睡眠、運動、休息などの生活習慣を見直していく必要があります。
神経症型自律神経失調症
ストレスに弱い性格、心理的な影響が強いタイプです。
自分の体調の変化に非常に敏感で、少しの精神的ストレスでも体調をくずしてしまいます。
感受性が過敏なため、精神状態に左右されやすいタイプです。感情の変化が体に症状として現れます。
自律神経の検査
除外診断の中でも、自律神経症状があらわれているもので、自律神経自体に問題のある病気があります。起立性調節障害や、迷走神経障害(ケガや手術の後遺症で自律神経の枝に影響が出たもの)が疑われるものがあります。
自律神経そのものの機能を調べる検査として、病院ではCVRR(心電図R-R感覚変動係数)、血圧の調節機能をみる検査で、失神、たちくらみ、立っていると体がだるくつらいなどの症状を検査するHUT(立位心電図)、心拍を調節する副交感神経と交感神経を評価するHRV(心拍変動検査:24時間測定)、シュロング起立試験(能動的起立試験)、鳥肌反応検査、精神性発汗を評価する検査(交感神経性発汗反応検査)、指尖容積脈波などのうちどれか一つをおこなうことがあります。
起立性低血圧だけの疑いを検査するのであれば、シュロング起立試験、HUT(head up tilt)どちらかをおこない、シュロングのほうが血圧の低下幅が大きく、判断しやすいです。
自律神経失調症を疑う場合、CVRRもしくはHRVの検査をすることが多いです。
自律神経失調症とうつ病の違い
自律神経失調症は、自律神経がストレスによって交感神経と副交感神経のバランスが崩れ、正常に機能しないことによって起こるさまざまな症状の総称です。
一方、うつ病は脳の神経細胞の間で「神経伝達物質」と呼ばれるセロトニンやノルアドレナリンの量が減って、情報がうまく伝わらないために、さまざまな症状があらわれる病気と考えられています。
うつ病の中にも自律神経症状はよく認められます。しかし、うつ病では、自律神経失調症とは診断しません。あくまで状態であり、自律神経症状です。
自律神経失調症の治療
自律神経失調症の治療目的
- ストレスを和らげ、自律神経症状を改善する
- 身体症状が改善することで、悪循環をなくす
- 二次的なうつ状態や不安障害を改善する
自律神経失調症では、交感神経が過緊張状態であることが多いです。そのため、薬でも鍼灸でも交感神経の興奮状態をいかに鎮めてあげるかが症状改善の近道となります。
薬の大きな目的としては
- ストレスやを和らげる「こころの薬」
- 身体症状を和らげる「からだの薬」
があります。
こころの薬としては
- 抗不安薬(精神安定剤)
- 抗うつ剤
- 睡眠薬
が中心です。
一方、からだの薬として
- 嘔吐に対しての制吐剤
- 腸症状に対しての胃腸薬
- 頭痛や肩こりに対しての筋弛緩薬
などがあります。
自律神経に対する鍼灸治療の効果
鍼灸治療には、薬を使わず自律神経を調節する方法があります。
自律神経を調節する目的は、
- 副交感神経機能を高める
- 交感神経機能の過緊張を鎮める
- 交感神経機能を高める
などを状態に合わせて選択します。
1は、軽度の自律神経失調症もしくは再発防止の管理のために。
2は、自律神経失調症の症状が強い場合。
3は、どちらかというと起立性調節性や喘息発作に対して活用することが多いです。
自律神経の機能は、呼吸、体位(あおむけ、横向き、座位、立位)、刺激方法、刺激部位によって変化します。
この性質を利用して、症状に合わせて一定の法則で鍼灸治療をおこなうと、自律神経機能の乱れが改善され、正常に働くようになります。
効果1:心拍数の減少
自律神経失調症の患者さんは、心拍数が多くなっている傾向にあり、副交感神経抑制状態にあるといえます。
前述の鍼灸治療をおこなうことにより、治療中から心拍数が低下していきます。これは、副交感神経機能が活性化し、自然治癒力を高める理想的なリラックスした状態になるということです。
効果2:血圧の低下
血圧が高い、イライラする、眠れない、頭痛がする、手足が冷える、浮腫むなど交感神経機能の高まりが原因で起こる症状に対し、全身的交感神経機能の過緊張を解く作用のある鍼灸治療をすることで前述した症状が改善していきます。
効果3:片頭痛の改善
疲れやすい、低血圧、朝起きれない、片頭痛がする、立ちくらみがする、夕方になると足が浮腫むなど交感神経機能の低下によって起こる症状は、全身的交感神経機能の適度な亢進作用が望める鍼灸治療を行うことで血管の緊張性も高まり、特徴的な諸症状を改善させてくれます。
効果4:柔軟性の向上
鍼灸治療をおこなうことで、交感神経の過剰亢進が正常化し、筋肉の過緊張が改善されます。鍼灸治療をおこなうことで、立位体前屈からの指床間距離が治療前と比べて近づいたという研究結果も出ています。この変化は治療直後に体感することもできます。
効果5:冷え性の改善
自律神経の機能が改善することで、末梢血管(指先の血管)の過緊張がとれることで鍼灸治療5分後より指先の皮膚温度が上昇しています。この反応は、ホメオスタシスの関係から、冷えのあるケースでは治療により温度が上昇、しかし、冷えのない時には反応がほとんど起きない、反応が5分後と少し時間がかかることがわかります。
もともと、血管は自律神経によって支配されているため、自律神経の機能に異常がしょうずると当然のことながら血管の運動に変化が起こり、冷えやほてりなどがあらわれます。特に足の冷えの多くは、足の血管の緊張が解けないという状態で起きます。更年期障害の冷えやほてりも、自律神経関与の症状としてあらわれるものが多いです。
効果6:朝起きれるようになる
自律神経障害の一つとして、思春期の子供に多い起立性調節障害があります。
起立性調節障害とは、朝起きれない、気持ちが悪い、頭痛がするなどの症状を伴う自律神経の機能不全を起こしている病気で、その殆どが自律神経(末梢血管交感神経)活動が低下しています。
立ちくらみである起立性低血圧も自律神経障害の一種ですが、起立性調節障害では、起立直後すぐに活発化するはずの交感神経が作動せず、また循環血漿流量も少ないことが相まって血圧が低下したままになります。
一方、心臓は血圧を維持するために心拍数を増加させ、起立中に頻脈を起こします。
鍼灸治療をおこなうことで、このような交感神経の低下による血圧の低下や頻脈を正常に維持できるようになり、朝、血圧が低すぎて起きれない、頭痛がして動けないといったような症状を改善することができます。
鍼灸治療により、副交感神経機能を高める反射をつくる。そして、呼吸によって起こる副交感神経機能リズムに鍼灸刺激でつくられた副交感神経機能が高まった反応が同期すると、ブランコの揺れが大きくなるように、からだの副交感神経機能が大きくなります。それに交感神経機能が同調し、結果として自律神経機能が高まるのです。また、交感神経の高ぶりが強い状態では、正常に働くように交感神経の高ぶりを下げてあげることもおこないます。
鍼灸治療のながれ
-
01 問診
ストレスに弱い体質や性格、ホルモンの乱れは、身体の内部から自律神経症状を引き起こします。
一方、仕事や家庭でのストレスは身体の外部からの原因となります。
そのため、問診では患者さん自身が気になる症状、気になる時の状況、増悪因子、緩解因子等をお聞きし、かつ、本人が自覚していなく、こちらから質問した時に「そういえば」と思い出すような症状も見逃さないようにします。
同時に、糖尿病、脳梗塞、パーキンソン、子宮内膜症、生理痛など自覚している病気も確認し、主訴との関連性を把握します。
-
02 検査
除外診断
自律神経失調症と診断するためには、問診で確認した病気を含め、更年期障害、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)、心身症、過敏性腸症候群、うつ病、狭心症、起立性調節障害など、似たような症状で考えられる病気すべてを除外していきます。そのために、病院での検査結果をお持ちの患者さんには確認させていただく場合もあります。
自律神経失調症は、自律神経自体に構造的な問題はありません。
自律神経失調症は、ストレス、不安、うつなどの精神的な問題により動悸、頭痛、体の重さ、しびれ、めまい、過呼吸、下痢、ほてり、多汗など自律神経が支配する様々な臓器の不調を示す機能不全による症状がみられるものです。心理テスト
症状の背後にある心理的要因を調べていきます。自律神経失調症の多くは、心理的な要因が深くかかわっていますので、その心理的要因を探ることが、診断や治療において重要となってきます。
心理テストには、神経症傾向を見るCMIやTMI、ストレス度を見るSCLやストレス耐性を見るSTCL、性格的特性を見るY-G性格検査、不安の度合いを見るMAS、うつ状態の度合いを見るSDS、精神・心理・人格を多面的に評価するMMPIなどがあり、基本は面接や問診ですが、同時に質問表に記入してもらうケースがほとんどです。質問表には、体の状態だけでなく心理状態についても記入します。
これらの検査は、TMIでは体の症状について43の質問、精神的な症状について51の質問があり、CMIでは、身体的自覚症状に関する質問132項目、精神的自覚症状に関する質問51項目、既往症を問う質問15項目、行動や習慣に関する質問6項目、合計204項目もあります。
すべて一度におこなうのは、自律神経が乱れている患者さんにとって苦痛、不可能な場合が多いです。TMI:自律神経失調症・精神状態のチェック
自律神経失調症と精神状態のチェック項目の質問すべてに「はい」「いいえ」で答え、「はい」の合計数で分類します。
1 いつも耳鳴りがしますか(はい・いいえ) 2 胸のところが締めつけられるように感じたことがありますか(はい・いいえ)
3 胸のところが押さえつけられるように感じたことがありますか(はい・いいえ)
4 動悸がして気になることがよくありますか(はい・いいえ) 5 心臓が狂ったように早く打つことがありますか(はい・いいえ) 03 鍼灸治療
治療は、ベッドに横になってリラックスしていただいた状態でおこないます。
体の状態が冷えや緊張、背中とお腹、体幹と四肢での違い、炎症反応の有無、患者さんの主訴と多角的所見との一致はあるのかなど把握したうえで状態に合わせた鍼灸治療をおこないます。
鍼は髪の毛と同じくらいの太さ0.1mmほどです。治療は、前述の通り、体位や刺激歩法によって効果が異なります。
患者さんの状態によって、交感神経の過剰興奮、逆に交感神経がほとんど興奮していない状態など把握してから適切な治療法方を選択します。お灸は、火が直接肌に触れないものを使用していますので、火傷やお灸の痕が残る心配を極力減らします。
また、自律神経の乱れを整えるリラックス効果だけでなく、温めることで血行の促進や免疫細胞を増やし抵抗力を高める効果もあります。同時に、鍼治療の後にお灸をすることで治療効果が持続する作用もあります。
04 電気光線療法
患者さんの症状によっては、鍼や灸に加え、さらに血行を促すための電気治療を併用する場合があります。
ついつい眠ってしまうような心地良い感覚の電気治療は、深部の筋肉にまで刺激が届き血流改善をうながすだけでなく、交感神経の過剰な興奮を鎮める効果もあります。
自律神経失調症を治したい方へ
自律神経失調症になる原因は、現在の生活スタイルに必ず問題があります。
何も対処をしないままでいると、症状が悪化し深刻な状態になってしまいます。
そのため、自覚症状に対して一つずつ対応していく必要があります。当院の鍼灸治療は、症状を緩和させながら、再発防止、ストレスに耐えられる体質にかえる方針をとっています。まずは今ある症状を楽にして、安心して生活できるよう治療をはじめましょう。
いろいろな治療を転々とするのではなく、鍼灸治療で一緒に根本的に治していきましょう。